アルルの小曲

生後すぐ、彼女はこう呼ばれた。マレディクスィオン・フェアリー(忌み嫌われた呪いの妖精)……と。
これはメヌエットとなる前の、小さな妖精アルルの話。
エデンの森には妖精達の集落があり、彼らは悪戯をしたり、人々を危機から救ったり、共に遊んで暮らしていた。
しかし、その集落の輪に入れず、森の奥の外れで過ごす紫陽花色の妖精がいた。そう、彼女が今回の話の主人公、アルルである。
アルルには、他の妖精にない力があった。それは、エデンでは忌み嫌われる力の象徴……闇の力であった。闇の力はエデンの存在を脅かす悪魔と同じ性質の力だったが為に、その力を持つ者たちは迫害、差別の対象だったのだ。無論、それは種族を問わず、アルルもその被害に遭った。
しかし、誰もがアルルに近づかないわけではなかった。闇の力に怯えることなく、彼女に話しかけた、無垢な子供がいた。齢5歳くらいの男の子フラーである。フラーは森へ遊びに来る度に、アルルとよく話していた。他の子供や妖精たちが忠告するも、「怖くないもん、優しいもん」と笑っていた。
アルルはフラーといろんな話をした。お互い、楽しくて、朝から夕方までずっと語り合っていた。
他に友達がいなかったアルルにとって、フラーはかけがえのない存在だった。
しかし、その幸せは長くは続かなかった……フラーが森に来なくなったのである。
初めのうちは「忙しいのだろう」思い、気長に待っていたが、ひと月を過ぎても彼は来なかった。不安に駆られたアルルは、フラーの様子見を身に羽根を羽ばたかせた。
家にいるフラーの姿を窓の外から目に留めて、一度は安堵したものの、フラーの喀血を見て戦慄した。

アルル「え、ち、血……!?」
フラーは重い呼吸器系の病に罹っていた。医者から余命ひと月だと告知され、彼は寝床で肺が侵されていく痛みに耐えながらも、来訪したアルルを歓迎していた。
とてもつらいはずなのに、彼は苦しいと嘆かず、あたたかい笑みを見せていた。アルルには、それが逆に辛かった。
当時アルルは自分の持つ闇の力をコントロールすることができなかった。途方に暮れた彼女は教会でミサをしていたとある司教の言葉を耳にした。

セイクリッド「信じましょう、そして祈るのです、さすれば主が救いの光を与えましょう」

アルルは耳に留めた言葉から、神様に救ってもらおうと思った。
それから、彼女は毎日聖書を読み、神の教えを守り、懇願した。

フラーを救う力を私にください
どうか、どうか……神さま!

彼女の望みを、気まぐれな神はしかと聞き入れた。ミカエルを介して、神は闇の力しか持たないアルルに、光の力と、あらゆる病魔を祓う癒しの力を与えたのである。
彼女は歓喜し、神と天使に何度もお礼を言うと、早速その癒しの力で、フラーの病を治した。
アルルとフラーはお互いに喜び合った。また、いつもの日常に戻れる!……アルルはそう、信じていた……その翌朝、フラーが目の前で火刑に処せられるまで。
絶対に治ることのないと言われていた病が奇跡的に回復したことに、周囲はフラーが悪魔と取引したと踏み、禁忌を犯したフラーを早く神の身許に土にして還さねば禍が訪れると慄き、彼を火刑に処したのであった。
友達の断末魔の叫びがアルルの心に突き刺さり、彼女は木陰で無念と悔恨の涙を流した。
その夜、泣き腫らした彼女は司教の言葉を思い出し、彼女に教えを請おうと教会へと向かった。
教会へ入ろうとした足を、アルルはすんでのところで止めた。祭壇で、先ほどまでの自分と同じように、血だらけの男の子を抱え、黒い感情を剥き出しにして嘆き悲しむ司教の姿を目の当たりにしたからである。
たった一人の肉親である弟を信頼していた天使に殺され、司教は自棄になっていた。無意識に魔力の波動を身体から放ち、教会全体に地響きを起こしていた。
しかし、そんな彼女の暴走は、世界の歪みから現れた、蒼と黒の悪魔の声に諭されたことで、鎮静した。
そして、アルルは目の前で悪魔の誕生の瞬間を目の当たりにした。セイクリッドという司教が、悪魔プレリュードとなり、黒い悪魔に手を引かれて、ナイトメアへと消えていく様を。
その一部始終を見ていたアルルに、蒼い悪魔が声をかけた。

シャオン「ねぇ、キミ……何してるの?」
アルル「!?」
シャオン「あ、驚いた?……ごめんね、でも、そんな怯えることないよ。とって食べたりなんてしないから」
アルル「……」
シャオン「……どうしたの?」
アルル「神さまからもらったの、癒しの力を、それで友達を救ったのに、友達は、悪魔と契約したと誤解されて、殺された」
シャオン「……」
アルル「どうして?……こんなに祈ったのに。神さまは、この力を使えば必ずフラーは助かるって……なのに、逆にフラーは殺されてしまった」
シャオン「……弄ばれたんだね、キミは」
アルル「え?」
シャオン「神の気まぐれで、キミは悲劇のヒロインに抜擢されたんだと思うよ」
アルル「っ!?」
シャオン「知ってるよ、キミのこと。呪いの妖精って言われてるんだってね」
アルル「!」
シャオン「生まれ持つ、その闇の力の所為で、誰もキミを愛してくれなかった。でも、そう仕向けているのは、キミが救いを求めてやまない、愛を求めてやまない神さまだよ」
アルル「・・・う、うそ、うそよ!」
シャオン「うそじゃないよ」
アルル「デタラメなこと言わないで。悪魔の所為よ、あなた達、悪魔の所為で、似たような力を持った私まで、こんな目にっ!」
シャオン「……」
アルル「……っなんで、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの。わたしは、わたしは、ただっ!?」
シャオン「トモダチを救いたかった、愛されたかった」
アルル「!?」
シャオン「まだキミが神を信じていたいなら、ここにいるといい。でも、もし……この世界にいることが耐えられなったのなら、いつでもナイトメアにおいで……妖精さん」
アルル「……待って」
シャオン「?」
アルル「待って、置いていかないで。もう、ここには…………居場所なんて、ないの」
シャオン「じゃあ、おいでよ、メヌエット……マスカレードへ」
アルル「メヌエット?」
シャオン「そう、キミはこれから、メヌエット。もう、呪いの妖精なんかじゃない……僕の大切な仲間の妖精だ。さあ、行こう、メヌエット……ここから出て、外へ!」
メヌエット「……うん!」

End.

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