エレジーとパストラーレ

殺しには、慣れていた。
神の使命の為なら何でも出来た。
当時、教皇騎士団の団長だった私は
団員や天使候補生に、そう説いた。
「殺しなど、すぐに慣れる」と諭し、
命を奪うことへの罪悪感など
消え失せると諭した。
その兵の中には、
同じくマスカレードに属する
若き武者の姿もあった。
滑稽だろう……そんな私は、
灼けつく森の中、灰色のねこが
慟哭をあげていたのを見た時に、
それまで忘れていた罪悪感を
抱くようになった。
その光景が目に焼き付いてからは、
任務に赴く度に良心の呵責に遭った。
そんな私の前に、彼が現れた。
私が教えを説いた、アザゼルである。
当時、アザゼルは裏切り者の烙印を押され、エデンでは重犯罪者とされていた。
そんな彼と遭遇しておきながら、神の使命を尽くすことに疲れ果てていた私は、彼が堕天した理由と、かつて私が燃やした世界の生き残りである黒猫が、自分の所属している組織にいることを知った。
全て話を終えると、彼は私に選択権を与えた。
「このまま神の言われるがまま、死ぬまで殺戮を繰り返すか、俺と一緒にナイトメアに来て、拭えない罪悪感と戦いながら、償いの為に植林活動に従事するか、決めろ。マスカレードに来るのなら、ナイトメアに来てくれ……アンタの力を借りたい」
考える時間など、必要なかった。
罪を償いたかった私は、
彼の出した異世界の歪みへと、
迷うことなく入った。
覇王……いや、魔帝に会い、
私は彼の人柄に惹かれ、
悪魔として契約を交わした。
そして、黒猫パストラーレと共に
植林活動に従事するよう指令を受けた。
私はパストラーレに、森を燃やしたことを謝罪しようとしたが、彼に途中で遮られた。
「なにを言おうが、失った命は戻らない。これからの、あなたの言葉や仕事で、俺の上司としているべきひとか、判断する。だから、今は何も言わないでくれ……」
それから、しばらく共に植林活動に従事した。
憎しみに駆られながら復讐相手である私と共に仕事をする彼を想い、ナイトメアの環境問題をどうするか考えた。
当時のナイトメアは、環境がとても悪かった。水は汚れ、大地は荒れ、緑地などほとんどなく、砂漠だらけだった。このままではエデンに滅ぼされる世界の生物達を保護することもままならない。
荒れ果てた大地を、2人で耕し、果物や野菜、花、樹木の種子を植え、サーガに頼んで大地に力を与えてもらった。
命の源となる水は、魔帝様とヴァルスの力により浄められた。
少しずつできていく緑地を眺め、パストラーレは歓喜に震えていた。
「これなら、聖樹エルドラも本来の力を取り戻せる!」
彼の言った通り、聖樹エルドラは息を吹き返し、大地と植物に力を与えて、緑地を育んでいった。最初にできた森は、「エンシェントフォレスト」と名付けられた。
「団長、これで一歩進みましたね」
次も頑張りましょうと、彼は朗らかに笑う。その笑顔を見て、罪悪感に駆られていた心が癒された。
命を賭してでも、ナイトメアは、
この世界にある命だけは、
何としてでも守り通す。
そう、心に誓った。

償いの哀歌を囀りながら……

End.

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